『世界は私たちのために作られていない』
著:ピート・ワームビー 訳:堀越英美

この本を手に取った理由
私は、人を知りたいから本を読みます。
障害について「知識」を増やすためではなく、目の前のその人が、どんな世界を見て、何を感じながら生きているのかを知りたい。
そんな思いで、この本を手に取りました。
「理解する」とは、当事者の声に耳を傾けること
読み終えて真っ先に思い浮かんだ言葉があります。
「私たちのことを、私たち抜きに語らないでください(Nothing About Us Without Us)」
この言葉は、障害者権利運動を象徴するスローガンです。
1990年代に世界へ広まり、障害のある人に関わる制度や支援は、当事者を抜きに決めるべきではないという考え方を表しています。障害者運動の活動家ジェームズ・I・チャールトン氏が1998年に出版した著書『Nothing About Us Without Us』によって広く知られるようになりましたが、その言葉自体は、それ以前から南アフリカや東ヨーロッパの障害者運動の中で使われていたとされています。
この本は、まさにその言葉を体現した一冊でした。
『世界は私たちのために作られていない』は、ASDについて専門家が解説する本ではありません。
ASD当事者である著者が、自分には世界がどのように見え、どのように感じられているのかを、自身の体験を通して率直に語っています。
読み進めるうちに、私は「理解する」ということの意味を改めて考えさせられました。
私たちは、「普通」を当たり前のものとして生活しています。
しかし、その「普通」は、多数派の感じ方や考え方を基準にしているだけなのかもしれません。
著者は、音や光、人との会話、学校、仕事、そして休息まで、多くの人にとっては何気ない日常が、大きな負担になることがあると教えてくれます。
それは「努力不足」や「性格」の問題ではなく、世界の感じ方や情報の受け取り方が違うからです。
支援につながったこと
この本を読んで強く感じたのは、
違いがあることに、私たち社会の側がもっと慣れていく必要がある
ということでした。
定型発達とされる人たちは、周囲との調和や同調を大切にするあまり、自分たちの「普通」に当てはまらない人を、無意識のうちに周縁へ追いやってしまうことがあります。
近年はドラマや映画を通してASDについて知る機会も増えました。それは理解への大切な入口です。
しかし、一つの作品や一冊の本だけで「ASDとはこういうものだ」と分かった気になることは、とても危ういことでもあります。
ASDは「スペクトラム」と呼ばれるように、一人ひとり特性も困りごとも違います。
一人の当事者を知ることは、一人の当事者を知ることでしかありません。
だからこそ、当事者一人ひとりの声に耳を傾け続けることが大切なのだと思います。
私はこの本を読みながら、
理解するとは知識を増やすことではなく、目の前にいるその人の話を聴き、その人の世界を知ろうとし続ける姿勢を持つこと。
そんな支援者でありたいと改めて感じました。
保護者の皆さまへ
子どもたちは、一人ひとり違います。
その「違い」をなくそうとするのではなく、
違いがあっても安心して過ごせる環境をつくること。
それが私たち大人の役割ではないでしょうか。
子どもの特性を理解することは大切です。
でも、それ以上に大切なのは、
目の前の、その子自身を理解しようとすること。
『世界は私たちのために作られていない』は、ASDについて学ぶ本であると同時に、「違いのある人たちが、どうすれば共に生きていける社会になるのか」を考えさせてくれる一冊です。